Share

第4話 別れとオール1

last update Last Updated: 2025-03-09 13:32:11

 床にへたり込んだ俺の目の前に、小瓶に入った液体が差し出された。

 少し目を上げるとニアがいる。

「お疲れ様。最初としては頑張ったと思うわ。このポーションを飲めば体力が回復するから、どうぞ」

 彼女はルードよりはよほど信頼できる。

 瓶を受け取って赤い液体を一気にあおった。

 味は正直、薬臭くてうまいとは言えない。

 それでも渇ききった喉を滑り落ちる感触が心地よい。

 すっかり飲み干すと、確かに体が楽になった。

 俺は立ち上がって空き瓶をニアに返した。

「それから、これも」

 ニアは今度は古びた巻物を渡してきた。

「これは?」

「解呪のスクロール。いつまでも呪われた装備だと、困るでしょう。後で読んでみて」

「ありがとう!」

 まあその呪われた装備をそうと言わずに寄越したのは、そこにいるルードなんだが。

 ちなみにヤツは全く反省のない顔で、肩をすくめている。

「親切にしてやるのも、もう十分だな。ニア、そろそろ行くぞ」

「うん」

 ニアとルードは連れ立って洞窟を出ていく。

 洞窟の出口でニアが振り返った。

「ここから西の海岸を南に行けば、町があるから。一度行ってみるといいわ。それから焚き火の横の袋は、あなたへのささやかなプレゼント」

「俺からも最後の忠告だ。森の民の尖った耳は、差別と迫害の対象になる。町に行くなら隠しておけ」

「お互い生き延びていれば、またいつか会えるわ。さようなら」

 二人は口々にそんなことを言って、今度こそ本当に洞窟から出て行った。

 大して広くもない洞窟の中で、俺は一人になった。

「さて、ニアの言う『プレゼント』は、っと……」

 俺はまず、袋の中身を確認してみることにした。

 背負うのにちょうど良さそうな大きさの袋の中には、カチカチに固いパンと干した果物、さっきもらった赤いポーションがいくつか、それから色違いのポーションと巻物が何枚か入っていた。

 ルードの呪われた装備よりよっぽどまともである。ありがとう、ニア。

「まずは装備の解呪をしないと」

 赤黒く光る剣と盾は手から離れてくれず、しかもやたらと重くて不便で仕方ない。

 俺はもらった解呪のスクロールを開いて読んでみた。

 口に出して巻物の文字を読み上げると、装備が白い光に包まれた。

 おっ、これが解呪か?

 そう思ったのもつかの間、剣と盾の赤黒い光が抵抗するように強まって、白い光を吹き飛ばしてしまった。

 当然のように剣も盾も手から離れない。

「嘘だろ、解呪失敗かよ」

 思わず愚痴ると、剣を握った手に痛みが走った。

 見れば剣の柄から小さい針のようなものが飛び出して、手のひらに食い込んでいる。そこから少し血が流れた。呪いの効果(?)のようだ。

「くっそ」

 小さい傷とはいえ、こんなのがずっと続くのはごめんである。

 なんで解呪に失敗したのだろうか。

 もう一度解呪を試したくて、袋の中を漁ってみる。

 すると巻物ではなく小さい冊子が入っていた。開いて読んでみると――

『巻物(スクロール)の上手な使い方。

 巻物は魔道具の一種です。きちんと魔力を込めて、できれば魔道具のスキルを利用しながら読み上げましょう』

 魔力とかスキルってなんじゃそりゃ! ゲームじゃあるまいし!

 ……うん? ゲームか。

 俺はふと思いついて、頭に浮かんだ言葉を言ってみた。

「ステータスオープン!」

 名前:ユウ

 種族:森の民

 性別:男性

 年齢:15歳

 カルマ:0

 レベル:1

 腕力:1

 耐久:2

 敏捷:1

 器用:1

 知恵:1

 魔力:1

 魅力:1

 スキル

 剣術:0.1

 盾術:0.1

 瞑想:1

 なんつーか、底辺高校のヤンキーもびっくりなほぼオール1である。

 あとスキルの0.1ってなんだよ。1未満なんかあるのかよ。

 魔道具とやらのスキルはないわ、魔力は1だわで解呪に失敗した理由が分かってしまった。

 スキルをゲットするなり、ステータス(?)を上げるなりしないとどうにもならないのだろう。

 しかしどうすればいいのか?

 俺はオール1の中で唯一2である耐久に注目してみた。

 これまでの俺は難破船から放り出されて命の境目をさまよい、やっと起き上がれるようになったと思ったらグミの魔物にボコられてまた死にかけた。

 ということは、死にかけて何とか生き延びたから耐久力が上がったのか? そんなバトル漫画の主人公みたいな話があるのか?

 まあ、筋トレに励めば腕力が上がるという話なら理解できる。

 敏捷や器用も鍛えりゃ上がるんだろう。

 問題は、肝心の魔力の上げ方が見当もつかないことだ。

 あとは知恵と魅力も分からん。ていうか知恵と魅力を鍛えるって何だよ。

 知恵は今さら勉強に励めってか。

 魅力はさらに理解不能。セクシーポーズの練習でもすりゃあいいのか?

 途方に暮れた俺は、ため息をついて焚き火の横に腰を下ろした。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Related chapters

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第5話 異世界転生したんだって

     魔力やスキルでわけが分からなくなってしまったが、俺はもう一つ心配があった。 それは、俺が一体どうして船に乗っていたのか思い出せないことだ。 ステータスでは俺は十五歳の森の民であるらしい。 しかしそう言われても実感がない。 正直俺は、自分がもっと大人のつもりでいた。二十代とか、何なら三十歳くらいのだ。 それに時折自然に脳みそを流れていく、変な言葉や記憶たち。 某国民的RPGやら、底辺高校のヤンキーやら、バトル漫画やら。 俺にとってはこれらの方がよほど馴染みがあって、今の自分は突然どこか別の場所に放り込まれたようにすら感じる。「異世界転生……?」 スキルやらステータスやらがある以上、ここは俺が本来いた場所ではない。そう確信がある。 ならばここは別の世界で、俺自身も前の俺ではない。 それこそゲームやアニメで聞いたことのある、別の世界に生まれ変わる――異世界転生をしてしまったと考えるとしっくり来た。 船が沈没したショックで前世の記憶を思い出したってとこか。 思い出した引き換えに今までの十五歳分の記憶が消えてしまったのが痛いが、今さらどうにもならん。「いやあ、どうするかなぁ……」 俺は心の底からのため息をついた。 異世界転生したらしいと分かっても、事態は何も変わりはしない。 俺の両手は呪われた剣と盾が張り付いており、ステータスはほぼオール1で、頼れる人は誰もいない。 何もかもが絶望的だ。 けれども俺は死ぬのは嫌だった。 というか、こんなわけの分からん状態でわけの分からんままで死ぬとか、誰だって嫌に決まっている。 船の難破も、ルードみたいな性格クソ悪野郎に生肉食わせられたのも、理不尽な目に遭うのはもうコリゴリだ。 死んでたまるか。 生き延びてやる。 俺の願いは生きること……! これからこの世界で、きっちり生ききってやるんだ! 他でもない、俺自身の力で!! そう決めたら、腹の底から力が湧いてきた。 そうだ、このままじゃいられない。やられっぱなしでいられるか!「町に行ってみよう」 このまま洞窟でこうしていても、ただ時が流れるだけだ。 町に行けばスキルが習えるかもしれない。そうしたら呪いも解ける。 生きていくのに必要だった。「腹が減ったな」 これから長時間の移動をするのだ。余裕のあるうちに飯を食っておこう。 俺は

    Last Updated : 2025-03-11
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第6話 不注意一瞬、事故のもと

     袋の中身は少々の食料と、何色かのポーション。それに巻物がいくつか。 うち、赤色のポーションは体力を回復する。これは自分の体で体験済みだ。 では赤色以外のポーションと巻物はどうだ。 解呪の巻物は何の役にも立たなかったが、攻撃に使える巻物はないだろうか。 そう思って巻物を取り出してみたがけれど、これがどんな効果を発揮するのか皆目分からん。 そういえば解呪の巻物もニアが「これで解呪できる」と渡してきたからそういうものだと分かったのであって、俺が解読したのではなかった。 だが、それならとりあえず読んでみよう。やってみればよかろうなのだ。 解呪も失敗はしたが、白い光が出てきた。俺程度の魔力でもちゃんと発動はする。 俺はボロボロの巻物を手に取った。 開いて呪文を読み上げる。すると……「――えっ?」 ヒュン! と軽いめまいのような感覚がして、次の瞬間、俺は地面に立っていた。 場所はさっき登っていた木から十メートルちょい離れた場所か。 なんだこれ。瞬間移動した!? 木の上から消えた俺が地面に立っていると気づいて、グミどもがわらわら転がってきた。 ぎゃああああ! 俺は再び猛ダッシュして、手近な木に登った。「なんだこれ! なんだこれ! また死ぬところだったぞ」 何とか別の木に登って、俺はゼエゼエと荒い息を吐く。 やっぱり効果不明のものに思いつきで手を出すのは良くない……。 俺はとても反省した。 次。 反省した俺は、少しでも効果を確かめてから使うことにした。 巻物はもうどうしようもない。だって、いくら眺めても効果の予想ができないからな。 俺はポーションの瓶を取り出した。 赤以外では、緑色、ピンク色、透明(わずかに黄色)がある。 それぞれ瓶のふたを取り、匂いをかいでみる。 緑色のポーションは生臭い匂

    Last Updated : 2025-03-12
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第7話 不注意一瞬、事故のもと

     地面に降り立った俺に、赤グミが体当たりを仕掛けてくる。 その動きの素早さも重量感も白グミより一回り上で、俺はやっとのことで盾で受け止めた。やっぱりこいつ、手ごわい。 呪われた剣を振り下ろす。赤グミにかすったが、大したダメージになっていない。 赤グミの動きは素早く、俺ののろまな剣がまともに当たる気配はない。 二度目の体当たりを受け、俺は降りたばかりの木に背をつけた。 防戦一方に追い込まれて、じりじりと木を回り込みながら反撃のチャンスを探す。 そうして何度目か、赤グミは助走をつけた体当たりを仕掛けてきた。これをもろに食らえば、たとえ盾で受け止めても無事でいられないだろう。 弾丸のような勢いで飛びかかってくる赤グミを、渾身の力で盾で受け――「くらいやがれ!!」 受け止めはせず、受け流すように。 木の幹に沿って勢いを流しながら、赤グミを盾ごと地面に叩きつけた。 ――まだ残っていた硫酸溜まりへと。「ピギ――――――ッ!!」 硫酸に体を焼かれて、赤グミが絶叫する。 何とか逃げようともがくが、必死に盾で押さえつけた。 やがてだんだん抵抗する力が弱まって、ついには何もなくなった。「ハアッ、ハァ……」 硫酸溜まりから盾を引き上げ、何度も荒い息を吐く。「ははっ……ざまあみろ」 ふと盾を見れば、もともと錆びてボロボロだったのがさらにひどい有り様になっていた。硫酸に焼かれたせいであちこち腐食している。 こんなでも呪われていて外せないとか、どんな理不尽だよ。 そして、ふと。『ユウのレベルが2になりました』 奇妙に無機質な声が耳元で聞こえて、俺は飛び上がった。 声はそれだけを告げた後、ふっつりと聞こえなくなる。「レベル上がったって? マジでゲームの世界だな……ステータスオープン」 名前:ユウ 種族:森の民

    Last Updated : 2025-03-13
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第8話 港町カーティス

     酒場のメニューは壁際に木札が張られている。  港町らしく、魚のメニューが多い。  それからこの町は「カーティス」というようだ。「港町カーティスへようこそ!」と天井から木札が吊られていた。「ご注文は?」 さっきの娘さんがやって来た。「……煮干しで」「煮干しだけ?」「お金がないんで……」 手持ちのお金じゃそれ以外のメニューを頼むのが無理なんだよ。「あはは、了解。まあ、煮干しだって魚のはしくれだから。知恵と器用さを鍛えてくれるわよ。きみ、駆け出し冒険者でしょう。頑張ってね」 何? 今、彼女は聞き捨てならないことを言った。「食べ物によってステータスが上がるのか?」「そうよ。そんなの常識じゃない」「じゃ、じゃあ、魔力を上げるには何がいい?」「魔力なら果物じゃない? うちの店にもあるわよ、デザートで」「煮干し、取り消しで! もう一回考える」「はいはい」 何と、まさか食事でステータスが上がるとは。栄養素の問題なのか?  しかしそれにしては、十五歳の俺がステータスオール1なのはおかしくないか?  生きていれば飯は食う。十五年分食べ続けて1ってどういうことだ。  船の難破で死にかけてリセットされたのか、それともこの世界お得意の理不尽かよ。 まあいい、これから魔力を上げて解呪すればいいんだ。  俺はデザートのメニューを眺める。 ……どれも手持ちじゃ頼めない額のものばかりだった。 俺は結局煮干しを頼んで、酒場の閉店まで粘って外に出た。  もう深夜で、辺りは真っ暗。  しかし小銭を使い果たしてしまった俺が、どこかに宿を取れるはずもなかった。 煮干しだけでは腹持ちが悪い。さっきから空腹で仕方がない。  袋の中にはもう一個だけ堅パンがある。干しブドウも少しだけ残っている。  それらは俺の心の支えだ。今、食ってしまうのはためらわれた。 今の季節は春ってとこか。昼間動き回ってい

    Last Updated : 2025-03-14
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第9話 カツカツの暮らし

     冒険者になった俺は、さっそくギルド内の依頼掲示板を見てみた。 魔物討伐や素材納品依頼が定番らしいが、中にはちょいちょいショボいのもある。 落とし物捜索やら、お年寄りの散歩の付き添いなんてのまである。 流石にそういうのは鉄貨五枚とか、子どもの小遣いの依頼料だ。「すみません。この辺で安い宿屋に泊まったら、一泊いくらかかりますか?」 受付のおっさんに聞いてみると、「素泊まりなら銅貨四枚ってとこだろ」 という話だった。 つまり一日に宿代の銅貨四枚と食費を稼がなければ野垂れ死にするってことだ。 ……厳しくない? 依頼掲示板の誰でもできそうな依頼をやっていたたら、宿代だけでカツカツ。食費が出せなくて飢え死に直行。 かといって毎日野宿していたら、体が持ちそうにない。「あとそれから、解呪の巻物は一枚いくらですか」「銅貨五十枚だな」 げげっ。その日暮らしでいっぱいいっぱいなのに、その金額はなんだ。 この呪われた剣と盾とお別れできそうにない……。 俺は思わずすがるような目で受付のおっさんを見つめたが、目をそらされた。「いいか新入り、いくら厳しくてもギルドは仕事の斡旋以上の手助けはしない。たとえそれで野垂れ死んでもだ」「ちょっと厳しすぎじゃないですか」「世の中そんなもんだよ。それでも生き延びていけば、対価次第で新しいスキルの習得なんぞも紹介してやる。せいぜい一日でも長く生きるんだな」 取り付く島もない。 これ以上、おっさんとぐだぐだ問答する時間も惜しい。 俺はもう一度、依頼掲示板に向き合った。 本日は、いくつかの依頼を受けた。 一つ目は埠頭近くに住むザリオじいさんの散歩の付き添い。 最近足元がおぼつかなくなったじいさんのために、娘さんが手配した依頼だ。 二つ目は港のゴミ拾い。最近ポイ捨てがひどく、

    Last Updated : 2025-03-15
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第10話 カツカツの暮らし

     午後、港のゴミ拾いの仕事をする。これが案外大変だった。 ゴミというからちょっとした小さいものだと思っていたのだが、そうじゃなかった。 ぐちゃぐちゃに腐乱した魚のアラとか、壊れたブイとか、各種の廃材とか。扱いがやっかいなものが多い。 俺はひどい臭いに耐えながら腐った魚を片付ける。 廃材は重くてゴミ捨て場まで持って行くのさえ一苦労だった。 破損した樽は木片が毛羽立っていて、指に刺さって大変だ。 午後いっぱいかけて掃除したが、あまりきれいになった感じはしない。 が、とりあえず今日はここまでということになって、仕事は終了した。 明日以降も随時募集するらしい。 長時間拘束と重労働の割に依頼料がいまいちなので、続けるかは悩むところだ。 ここで一度冒険者ギルドに戻って、午前と午後の仕事の依頼料を受け取っておく。 ザリオじいさんの散歩は子どもの小遣い。 港掃除はバイト代くらいにはなった。 合計、銅貨四枚と鉄貨八枚。「これで何とか、今夜の宿は確保できる」 じいさんにもらったパンを食べて、残りの干しブドウも思い切って食べた。 名残惜しいが、いつまでも持ってはいられないからな。 日があるうちに宿屋の位置も確かめておいた。 夜になったので酒場に行く。 ただでさえボロい格好の俺が、港掃除で汚れた姿になった。 こんなんで飲食店に入っていいのか悩んだが、看板娘は気にせず招き入れてくれた。 厨房に行ってひたすら皿を洗う。「ああ、そんなに丁寧じゃなくていいから。ざっと汚れが落ちりゃあいいんだよ」 料理人がそんなことを言った。テキトーだな。 まあそういうことであれば、俺もテキトーにやる。 皿洗いは店じまいの深夜まで続いた。 冒険者ギルドはもう閉まっているので、精算は明日になる。 疲れた体を引きずりながら、安宿まで行く。 カウンターのおかみさんに言って通してもらった部屋は、本当に粗末だ。 部屋は狭く、ベッドも藁を敷いた

    Last Updated : 2025-03-16
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第11話 新しい話

     ステップアップを考えながらなかなか進めないでいるうちに、季節は春から夏になった。 気温が上がって、夜になっても暑さが続く。 海の向こうに見える雲はモクモクの入道雲。 真っ青な海と空はまぶしいくらいだ。 そんなある日、冒険者ギルドにちょっと変わった依頼が張り出された。『配達依頼。夏の結晶を隣村サザのライラばあさんまで届けてほしい』 配達依頼自体はけっこう出るものだ。 夏の結晶もありふれた石で、ちょっとした魔法の触媒になるらしい。 だがサザ村というのは初めて聞いた。「なあおっちゃん。隣村ってくらいだから、サザ村は近いのか?」 ここ数ヶ月で受付のおっさんとすっかり親しくなった。 軽い口調で聞いてみると、答えが帰って来る。「近いぜ。このカーティスの町から東に徒歩で丸一日ってとこだな。なにせ小さい村なんで、配達依頼もあまり出ない。ユウ、お前がやるには手頃じゃねえか?」「そうだな」 俺の実力では、もっと離れた町や村まではまだ行けない。途中で魔物に出くわしたらアウトだからだ。 だが、徒歩一日なら何とかなりそうだ。 持ち歩く食料も少なくて済むし、野宿も片道一泊だけ。身軽であれば逃げられる確率も高まる。 その分、一般的な配達依頼に比べると依頼料は安い。 けれど町の雑用依頼よりはずっと良い。 これを無事にこなせば、ぐっと貯金を増やせるぞ……!「よし、俺、この依頼引き受けるよ!」「その意気だ」 そうと決まれば準備をしなければ。 たった一日とはいえ、歩き詰めと野宿になる。何の備えもなく行けるものではない。「じゃあユウに、初挑戦のせんべつをやるよ」 受付のおっちゃんが言って、袋を取り出した。 首を傾げながら中身を見ると、冒険者ギルドに加入するときに銅貨の代わりに渡したポーションと巻物だった。「え、これって?」「取っておいたんだよ、ありがたく思え」 おっ

    Last Updated : 2025-03-17
  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第12話 配達

     配達先のライラばあさんはすぐに見つかった。 なにせ全員で五十人くらいしかいない小さな村だ。畑仕事をしていた人に聞いたら、教えてくれた。 ばあさんの家は村の中で一番大きかった。村長の奥さんという話だったな。 ライラばあさんは真っ白な髪を長く伸ばした老婆で、目にも髪がかかっている。 夏の結晶――青っぽい小さい石ころ――と配達依頼票を渡すと、ばあさんは嬉しそうにニヤッと笑った。「ご苦労だったね。ほれ、これが依頼料だ」 おや。配達依頼はギルドで精算じゃなく、配達先の人がくれるのか。 ライラばあさんがくれた小袋の中を見ると、確かに依頼料の銀貨二枚が入っている。 銀貨一枚は銅貨十枚分。いつもの安宿に五日は泊まれる。 他の人にとっては小銭でも俺には十分な収入だ。「……あれ」 小袋の中をよく確かめていると、銀貨の他に何か入っていた。 銀貨と同じくらいの大きさのコインだ。だが銅貨ではないし、もちろん金貨などではない。 シンプルなデザインに星のマークが刻まれている。「この星のコインは何ですか?」 ライラばあさんに聞いてみる。「メダルだよ。何だお前さん、冒険者のくせに知らないのかい」「俺、まだ駆け出しでして……」 正直に言うと、ばあさんはちょっと呆れた顔をした。「あまりそういうことを言うもんじゃない。舐められるだろ。――メダルはね、冒険者や他の各種ギルドで使える特別なコインだ。ギルドごとのスキルを習ったり、色んなサービスを受けられたりする」 今まで俺がメダルを手にする機会がなかったのは、報酬が低すぎる仕事ばかりやっていたからとのこと。 せめて銀貨単位の依頼料でなければ、メダルはもらえないんだそうだ。 俺が港町でやっていたバイトレベルの依頼は、全部銅貨や鉄貨での支払いだったからな……。「詳しいですね」「そりゃあ、あたしはこの村の冒険者ギルド支部の責任者だからね。

    Last Updated : 2025-03-18

Latest chapter

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第41話 犯罪者だ!再び

     俺は必死に衛兵から逃げる。「うわっ!」 衛兵の片方が矢を射掛けてきた。 あいつら容赦ない! とっさに左にステップを踏んでかわす。 軽業スキルとダンジョンで培った戦闘能力が役に立った。 矢は石畳の継ぎ目に突き刺さった。その威力にぞっとする。 路地に追い立てられ、狭い道を必死で走る。 やがて見えてきたのは行き止まり。 袋小路に追い込まれた。 衛兵たちの気配が近づいてくる。 と。 袋小路の手前、ゴミのかげにあったドアが急に開いて、俺は引っ張り込まれた。「しーっ。大人しくしてね」「バルト!」 俺を引き込んだのはバルトだった。 薄暗い室内で俺の口を押さえてくる。「犯罪者はいたか?」「いや、見失った」「近くにいるのは間違いない。よく探せ!」 壁一枚向こうで衛兵たちの声がする。 やがて声はだんだん遠ざかっていって聞こえなくなった。「ユウ、災難だったねえ」 バルトはニヤニヤ笑っている。 言葉とは裏腹にこうなるのが分かっていたかのような表情だ。 俺は心の底からため息をついた。「また地道なカルマ上げをすると思うと、気が遠くなるよ」「前と同じやり方じゃあ駄目だけどね」「え?」 バルトを見れば、彼は肩をすくめた。「だって税金の請求は二ヶ月ごとに来るんだよ? ユウは去年の夏が最後の納税なんだろ。次の税金を滞納すれば、脱税扱いになってカルマがまた下がる」 そうか、税金は二ヶ月毎に請求書が来るんだった。 締切まで間があるので、半年分ならまとめ払いができる。 ところが俺は半年前に納税したっきり。 次の締切は二ヶ月後になる。 たった二ヶ月でマイナス45のカルマを戻せるか……? いや無理だろ。以前はマイナス35から始まって、ゼロに戻すまで四ヶ月はかかった。

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第40話 犯罪者だ!再び

     わざわざ一緒に行くって? バルトの言葉に俺は首を傾げた。「え? 別にいいよ。税金納めるだけだし。犯罪者状態はもう解除されてるから、衛兵に襲われることもないし」 そう、先日。カルマがゼロまで戻ったのだ。俺はとうとう犯罪者ではなくなった。 バルトは笑顔のまま首を振る。「僕も王都に用事があるんだ。二人で行ったほうが道中も安心だろう。さあ、行くよ」「まあ、そういうことなら」 そうして俺とバルト、クマ吾郎はディソラムの町を出発した。 バルトはさすが盗賊ギルドの一級ギルド員。 短剣の二刀流を見事に使いこなして、弱い魔物程度なら瞬殺してくれる。 気配を消すのが上手いので、物陰からこっそりと近づいて背後からバッサリだ。 バックスタブってやつだな。「短剣もいいなあ。長剣に比べると威力が低いと思っていたが、そんなこともないのか」 俺が言うと、バルトは器用に短剣をくるくると回してみせた。「一撃の威力は長剣に劣るけど、短剣は連撃ができるからね。どっちを取るかは本人次第さ」 そんな話をしながら俺たちは強行軍で進んでいった。 王都パルティアに到着したのは、納税締切日の午後のことだった。 俺は税金の請求書を握りしめて税務署へと走る。 バルトは用事を済ませてくるからとどこかに行ってしまった。 クマ吾郎は城門のところで待機だ。 カルマが戻っているので、衛兵に追われることもない。 町行く人々も俺を特に見ることもなく、通り過ぎていく。 いやはや、あたり前のことだが助かるね。 たどり着いた税務署はすごい人混みだった。 周囲の人たちの声が聞こえてくる。「いつもにもましてすごい混みっぷりね」「今日が締切の税金が多いからね。駆け込みで納税する人がたくさん来ているんだろう」「余裕をもって納税すればいいのに。いい迷惑だ」

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第39話 修行の日々

    ・現在のユウのステータス。 名前:ユウ 種族:森の民 性別:男性 年齢:15歳 カルマ:-4 レベル:18 腕力:21 耐久:13 敏捷:19 器用:18 知恵:11 魔力:17 魅力:1 スキル 剣術:8.8 盾術:2.2 瞑想:4.5 投擲:6.3 木登り:4.1 隠密:5.4 鍵開け:3.3 罠感知:1.5 罠解体:1.2 軽業:2.8 釣り:1.7 魔道具:3.5 詠唱:4.9 読書:5.6 装備: 鉄の剣(剣術ボーナス付き) 蔓草の盾(瞑想ボーナス付き) 鱗の軽鎧(魔道具ボーナス付き) 丈夫な布のマント 鱗のブーツ(敏捷ボーナス付き) お財布の中身:金貨換算で約九枚(銀貨なら九十枚) ダンジョンで戦闘を繰り返したため戦闘系のスキル・ステータスがけっこう上がった。 戦闘スタイルは相変わらず、クマ吾郎を前衛にユウはサポートで立ち回っている。 ポーションの投擲もだいぶ精度が上がってきた。 遠くの標的でもそれなりに命中させられる。 魔法もなるべく使っているおかげで、魔力や詠唱スキルも上昇している。(当然、魔法書の解読もずっと続けている) 今ではマジックアローは九割以上の確率で成功するようになった。 鍵開け、罠感知、罠解体、軽業は盗賊ギルド限定のスキル。 鍵開けと罠二つは名前通り。 軽業は素早い身のこなしに対応するスキル。敵の攻撃の回避の他、高いところに飛び上がったり飛び降りたり、空中でバク転をしたりといった幅広い動きに関連している。 ダンジョンで拾った装備品が徐々に増えている。 今のユウの実力は、そろそろ中級冒険者に届きそう……といったところ。

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第38話 修行の日々

     バルトに勧誘を受けて以来、俺は盗賊ギルドを拠点に活動を続けている。 盗賊ギルドは便利な施設が揃っていた。 宿泊所に休憩所、アイテム屋と魔法屋、武具屋、スキル習得所。 一通りの店は揃っている上に、商品が豊富。 カルマの上昇という意味では使えないが、それ以外の生活は大助かりだ。 特にアイテム屋と魔法屋の品揃えがいいのが助かる。 アイテム屋ではポーションを買い込んで、ダンジョン攻略に役立てている。 魔法屋ではマジックアローの魔法書の他、戦歌の魔法書も買うようになった。 この二つの魔法はどちらも初心者用で、戦歌の魔法は腕力と器用に一時ボーナスを与えてくれる。 戦いのポーションと同じ効果だが、魔法の練習も兼ねて覚えてみた。 攻撃魔法のマジックアローと違って、自己バフタイプの戦歌であればスキマ時間でちょいちょい魔法の練習ができる。 たとえば町なかの移動中とか、寝る前のちょっとした時間を活用するわけだ。 俺は少しでも強くなりたい。時間は無駄にはできないんだ。 おかげで読書スキルや詠唱スキル、戦歌の魔法自体も扱いが上手くなったと思う。 そんなわけで盗賊ギルド加入前よりずいぶん暮らしやすくなった。 余裕が生まれた勢いで、ギルドのノルマ達成――宝石を一定数納入する――を兼ねてダンジョン通いを再開してみた。 ダンジョンは自然発生する魔法の洞窟で、ときどき塔や砦のような建物の形を取ることもある。 ダンジョンのボスを倒したり、そうでなくてもしばらく時間が経つと崩壊して消滅。 また次の新しいダンジョンが生まれてくる。 いったいどういう仕組みでダンジョンが成り立っているのかさっぱり分からないが、稼ぎ場として便利なので冒険者は皆通っている。 ダンジョン内はアイテムや武具が落ちている他、ほとんど無限に魔物が出現する。 アイテム類を拾い集めれば金になる。魔物と戦っていれば腕試しになる。 行かない方が損ってもんだ。 本当にダンジョンって何なんだろうな。

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第37話 盗賊ギルド

    「ギルドのノルマだと?」 やはり裏があったのか? 思わずバルトを睨んでしまった。 けれどバルトは軽く肩をすくめて手を振ってみせた。「あはは、そんなに警戒しないでくれ。ノルマといってもそこまで難しいものではないよ。ギルド員のランクに応じて宝石を納入してほしいんだ」 この世界の宝石はピンキリで、クズ石に近いものから貴族が買い求めるような御大層なものまでいろいろある。 そして宝石は魔法の触媒にもなる。 つまり宝飾品だけでなく需要が高い実用品でもあるのだ。 需要が高いために換金性は高い。宝石は軽いので、重たい金貨や銀貨を持ち運びするより便利だ。 金持ちの商人や高位の冒険者なんかは、財産を宝石で持っていると聞いたことがある。「ユウはダンジョンに行くだろう。最初はそこで手に入る程度のクズ石をいくつかで十分だよ」 ダンジョンのボスを倒すと宝箱を落とすが、この箱の中には高確率で宝石が入っている。 俺が通える程度の初心者向けダンジョンでは、宝箱の中味もそこまでレアじゃない。宝石はクズ石に毛が生えた程度のものが多かった。 俺は触媒が必要な魔法は使えない。今までは使い道がなかったので、売って金策していたけど……。「ノルマを破るとどうなるんだ?」「ギルドを追放処分になるよ」 バルトは笑顔のままで言った。「等級が高いギルド員が追放されれば、メンツや情報保持の問題で暗殺者が放たれることもあるが。新入りであれば、まあ、身ぐるみ剥がそうとする強盗に何度か襲われる程度じゃないかな。逃げ切れればそれはそれでいいよ。実力を示すのは大事だからね」 強盗! 暗殺者!? なにそれ怖! 俺は思わず一歩後ずさって、頑張って腹に力を入れ直した。さらに質問する。「だが俺は、この町にずっといるつもりはない。いずれ町を出たら、ノルマの宝石が納められない場合もあるだろう。それでも追放処分になるのか?」「前もって脱退手続きをしてくれれば、特に追手は出ない。ま、脱退時にいくらかの『手数料』はもら

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第36話 盗賊ギルド

     翌日の夜。 俺はバルトに指定された時間に酒場に来ていた。 店に入るので、クマ吾郎は宿屋で待機してもらっている。 酒場はすでに閉店していたが、入り口のドアは開いていた。 中に入ってみるとバルトが待っている。一人でテーブル席に座って何やらトランプのカードをもてあそんでいた。 俺が来たのを見て、彼はカードをいじる手を止めた。「やあ、来たねユウ。返事はどうかな」「……盗賊ギルドに入る」 俺の答えに彼はにっこりと笑った。 昨日今日とよく考えての結果だった。 裏社会に関わりを持ちたくなんかないが、鍵開けや罠感知のスキルは他では覚えられない。 いくつもの町を回ってきたが、それらのスキルは一度も見たことがないのだ。 騙されているのかも、とは思った。 けど逆に俺を騙すメリットなどあるだろうか。 俺はやっと一人前になった程度の冒険者で、お金だって大して持っていない。 森の民の出自を隠して活動する以外は、ただのありふれた人間である。 こんな奴を騙しても別にいいことないだろ。 騙した挙げ句奴隷として売り払うとか、そんなことも考えた。 でもそれなら、その辺の浮浪児でも捕まえたほうが早いじゃないか。 俺の見た目はややイケメン寄りのフツメンだ。(自分でイケメン寄りとか言ってスマン)見た目以外も特技があるわけじゃないし。 やっぱりどう考えても騙すほどのメリットがない。 強いて言うなら森の民の出身くらいか。 でもなあ、森の民は優秀な魔力を持つらしいがそれ以外で特筆するものはないはずなんだ。魔力が優秀といってもバカ高いわけじゃなく、常識の範囲内だし。 森の民は今となっては数が少ない貴重な種族。人体実験でもされるのだろうか。 だが、迫害を受ける話は聞いても人体実験とかの噂は聞いたこともない。そこまで恐れていては生きていけないっての。 いくら考えても分からなかったので、思い切って進むことにしたのだ。虎穴に入らずんば虎子を得ず

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第35話 ならず者の町

     ならず者の町ディソラムで暮らし始めて、一ヶ月ほどが経過した。  季節はいつのまにかすっかり秋である。 昔、港町で極貧生活を送っていたときのように、小さい依頼を中心にこなしながら暮らしている。  ちょっとしたおつかいやら、店の手伝いのバイトやら、下水掃除やらだ。  あのときはお金のためだったが、今はカルマのため。  いつまで経っても世知辛い世の中だな。 他にも道端で転んだ老人を助けたり、迷子の道案内をしたりと善行も頑張っている。  ただしこの町はならず者が多い。  転んだ老人と思ったら盗人だったり、子供であってもかっぱらいをしたりと油断できない。 おかげで観察力が磨かれたような気がする。 手助けをするにしてもよく注意を払って、俺に被害が出ないようにするわけだ。何とも嫌な話だが、身を守るためである。 それでも地道な活動のかいがあって、カルマはマイナス14まで持ち直した。  体に走る負のオーラがだいぶ軽減されてきたので、もう少しで犯罪者ではなくなると信じたい。「お疲れさん。今日はもういいよ」「どうも」 今日もアイテム屋の倉庫整理の依頼を終えて、俺は依頼料を受け取った。  店主が言う。「ユウは真面目に働くから、いつも助かっている。だが、この町で真面目は必ずしも美徳じゃないぞ。いつもお互いがお互いをだまそうとしている町だからな」「用心はしていますよ。この前も宿屋に強盗が入って身ぐるみ剥がれそうになったけど、撃退したし」 撃退したのは主にクマ吾郎なんだが、まぁ嘘は言っていない。  俺の答えに店主はニヤリと笑った。「へえ、それなりに腕も立つんだな。じゃあ盗賊ギルドからスカウトが来るかもよ」「盗賊ギルドか……」 盗賊ギルドはこの町を取り仕切っている組織だ。いわゆる裏社会のギルドで、他の町にもネットワークがあるらしい。  この町では誰もが盗賊ギルドの存在を知っている。  でも実際に誰がメンバーで、どんな組織なのかは謎に包まれているのだ。

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第34話 犯罪者だ!

     最近の俺は多少は強くなったので、野外でサバイバルしながら生きていくのはできると思う。 森の木の実を取ったり魔物や野生動物の肉を狩ったりで、食べ物は何とかなる。クマ吾郎という頼りになる相棒もいることだしな。 けれど一生お尋ね者で町に入れない生活なんて嫌だった。 町に入れなければベッドで寝られない。風呂も入れない。人と会話することもない。 俺は人間なんだぞ。そんなの嫌に決まってるだろ。 もう一度よく考えてみよう。どこかに突破口はないか。「そういえば、襲いかかってきたのは衛兵だけだったな。村人は嫌な顔をするだけで」 衛兵の目さえかいくぐれば、町で活動ができるか? 帽子をかぶるとか髪を染めるとか、軽く変装すれば村人もごまかせるかもしれないし。「そうだ、衛兵がいない町があったっけ」 ここから南下した先にある治安の悪い町である。 そこはならず者が我が物顔でうろうろしていて、衛兵が一人もいない。 一度配達で訪れたとき、あまりのガラの悪さにさっさと退散したのだった。「あの町に行ってみよう。行ってみるしかない」 南に向かって歩くこと約四日。 俺とクマ吾郎は、ならず者の町ディソラムに到着した。 道中で農村への配達依頼の期限が切れたおかげで、俺のカルマはさらに下がった。 今ではマイナス35である。 なお護衛対象の兄ちゃんが死んだとき、カルマは一気にマイナス25になった。 その後、彼の死体を埋葬したらカルマはマイナス20に上昇した。 どうやら依頼成功だけでなく、一般的に善行とされる行為を行ってもカルマは上がるようだ。 で、マイナス20だったカルマが配達依頼失敗でさらに下がり、マイナス35になったというわけである。 カルマは上がる時はちょっとずつなのに、下がる時はドカッと下がる。もはやどうしようもない。 カルマが大幅に下がったせいか、俺の体は全体的に負のオーラ(?)に包まれている。 身もふた

  • 転生したら最弱でした。理不尽から成り上がるサバイバル   第33話 犯罪者だ!

    「ガウ……」 シャーマンを始末したクマ吾郎が困った顔をしている。 俺もどうしていいか分からない。 火が周囲に延焼せずに消えたのだけが救いか……? と。『護衛対象の死亡を確認しました。護衛依頼は失敗です。ペナルティ』 依頼票が声を発した。 ペナルティの声と同時に、軽いめまいがした。 この感覚は前にも経験がある。カルマが大きく減ったときだ。 ステータスを開いてみたら、カルマが-25まで減っていた。マイナスの概念があったのか。「どうしよう……」 とりあえずこいつを埋葬してやって、農村に向かうしかないだろう。 彼が死んでしまったと到着先に伝えないといけない。 ついでに、農村まで届けものをする配達依頼もある。 俺は穴を掘って黒焦げ死体を埋めた。 土を盛って棒を刺し、軽く手を合わせておく。 こんなことなら、問答無用でクマ吾郎の背中にくくりつけてやればよかった。 後悔してももう遅いとは、このことだった。 目的地の農村に足を踏み入れると、いつもと雰囲気が違うのに気づいた。 普段は村人たちはみんなフレンドリーで、挨拶をしてくれる。 この農村は何度も来ているから、村人や各店の店主、衛兵とも顔見知りだ。 それなのに。「こんにちは。ひさしぶりです」「……ッ」 俺が挨拶をすると、村人のおばさんは顔をゆがめてその場を立ち去ってしまった。 周囲を見渡しても、誰も俺と目を合わせようとしない。よそよそしいを通り越してはっきりと避けられている、もっと言えば嫌われていると感じた。「なんで?」「ハフゥ?」 俺とクマ吾郎は顔を見合わせて首をかしげる。

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status